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トン(Dong)族は少数民族とは言え、総人口約296万人(2000年統計)。人口数では中国第11番目の大きな民族で、中国南部の貴州省、湖南省、広西壮族自治区にまたがって住んでいる。
map01_32地図

その写真を見たのは今から20年前のことでした。中国貴州省貴陽の書店で手に入れた「貴州古建築」という地元の出版社が出した本。ぱらぱらとページをめくっていって、ある写真に目が釘付けになったのです。

火の見やぐらのような建物と、美しい屋根がついた橋。これはなんなんだ?と思いました。

その後いろいろ調べてみると、これは釘を一本も使ってない建築で、トン族の「鼓楼」と「風雨橋」だとわかりました。鼓楼は、一番上に木製の太鼓を吊し、屋根が幾重にもなった塔状の建築物で、古いものでは17世紀後半に建てられたものもあるらしい。一方の風雨橋は屋根つき橋で、別名「花橋」ともいいます。「中国版マディソン郡の橋」です。

たまたま訪れた村の鼓楼では囲炉裏を囲んで数人の男たちが談笑していました。「こんにちは」と入っていくと、最初は何のために来たのか?と怪しまれました。「日本から鼓楼の写真を撮りに来ました」といっても、「どうしてこんな古い建物を撮るのだ?」となかなか理解してくれません。それでも害はないとわかってくれたようで、これから我々は出かけるが、あなたもいっしょに行かないかと誘われました。こういう場合、私はいつもホイホイとついていきます。

そこは隣村の1軒の家でした。すでに200人ほどの村人が集まっていて、食事の最中。聞けば、その家の子供の1才の誕生日を祝う集まりだという。

家のベランダで私も食事によばれました。4人の娘がそばに立ち、かん高い声で歌をうたってくれました。歌が終わると、御猪口を私の口につけて無理矢理酒を流し込み、テープルにおいてあった豚の刺身を箸で摘んで、これも私の口に押し込みました。なんと荒っぽい歓迎なのかと思いました。

みんなは興味深々と見ていましたが、私が豚の刺身を飲み干すとワーッと歓声が上がりました。村入の儀式は無事に済んだようです。

「昔、ヨーロッパのジャーナリストが『豚を生で食べる野蛮人』と、トン族のことを書いた。豚の生食が危ないことは知っているし、そのうちなくなってしまうかもしれないが、食習慣はなかなか変わらないものだよ」と隣の男が笑いながらいいました。食文化というのは、頭ではわかっても、体が受け付けないこともある。「豚の生は危ない」といわれて育った私は、やっぱり豚の刺身は恐かったですね。

楽しそうに食事をする村人たちの背後には、いつも鼓楼が見えました。トン族が新しい村を作る時には、まず鼓楼を最初に造るのだといいます。村人が集まる憩いの場所でもあるし、祭りのときには儀式を行うなど、神聖な場所でもあります。村を見守り続けてきた鼓楼は、みんなの心をひとつにする役目を果たしているようです。

 

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