2010年 7月 12日
モンゴルの首都、ウランバートルから480km、アルハンガイ県のツェンケル温泉。
地図
ツェンケル温泉に滞在中、夕方、近くの牧畜民のゲル(天幕住居)を訪ねることになったとき、雷鳴がひっきりなしに響き、それはまるでボーリング場にいるように鳴り続けたのですが、まだ雨が降り出す様子はありませんでした。
ところがゲルに着いて、中に入れてもらったとたん、ゲルのフェルト製の屋根がボツンと鈍い音をたてました。外を見ると直径2cmほどの白い玉が地面を転がっています。あっちにも、こっちにも。雹(ひょう)でした。巨大な雹。
すぐに、すさまじい勢いで雹が降り始めたのでした。さっきの雷鳴が普通ではなかったことに、ようやく「なるほどな」と納得できたのです。雹は数分間以上降り続き、草原は雪が降っているように白くなりました。まるで地球最後の日を迎えたような、非現実的な光景に、私は、ゲルの中で食品の写真を撮るという仕事をそっちのけで、しばし呆然と草原を眺めていたのです。
なんて表現したらいいのでしょうか。わくわくします。人間の存在を越えた圧倒的な自然の威力を感じます。一種の感動、あるいは、畏れ。
東の空を覗いたら、虹が出ていました。あわててウインドブレーカーを頭から被って表に飛び出ました。雹が当たるとさすがに痛い。ウインドブレーカーの隙間からカメラを出して写真を撮りました。雹が降っている中で虹が出るという天気に遭遇したのも初めて。
表につながれていた馬は、雹に打たれながらじっと耐えています。このときばかりは、馬に生まれなくて本当に良かったと思いました。
こんなすごい天気に遭遇したのは久しぶりです。そういえば、中国雲南省のドアン族の家に泊めてもらったときも、すごい雹が降りました。お父さんも、お母さんも、子どもたちも、みんな雹を拾っては食べ、拾っては食べていました。翌朝、村を散歩していたら、女の子が竹筒を持って、中に手を突っ込んでは何かを口に入れていました。「何を食べているの?」と聞きながら竹筒を覗くと、昨夜降った雹だったのです。よほど珍しかったのでしょうね。
モンゴルの、この牧畜民の子どもたちも、地面を転がってくる雹を、おもしろがって手には取りましたが、食べることはしませんでした。