2010年 7月 12日
標高3500メートルの楽園ラダック。小チベットと言われ、チベット密教文化のメッカでもある。下界から歩いていくと20日以上かかる秘境だが、飛行機ならデリーからたったの一時間。
二回目のラダックで密教寺院(ゴンパ)にハマッてしまった。と言っても坊さんやマンダラ美術に興味があったわけではなく、ドゥカンと呼ばれる部屋の濃密な空間に突然惹きこまれてしまった。薄暗い部屋に漂うバター油のきつい匂い、過剰な装飾、異端の香りが漂う仏たち、信仰の場としては今も現役のはずなのに、どこか荒廃したような空気感。なんだか危険な香りがする。まあ、だからこそ魅了されるわけなんだろう。
ドゥカンに入って最初にやることは礼拝である。五体投地を簡略化した礼拝が普通に行われていてそれを真似た。礼拝は義務ではないし、僕は密教信者でもなんでもないわけだが(少なくとも当時は)、なぜか礼拝せずにはいられない。頭を地面につけて、そこから仰ぎ見る密教空間というのが非常に刺激的だ。それに神経も研ぎ澄まされていくような気がしてきて気分も高まる。
礼拝が終わると三脚をセットして撮影を始めるわけだが、余計なものはほとんど撮らない。崇拝するような気持ちで仏たちをじっくり撮影する。辺境の地で何百年もの時間を生き、何十世代もの人々から崇拝されてきた仏たちの凄みが直に伝わってくるまでファインダーを見続ける。これが至福の時間だ。