2010年 10月 31日
熊野古道は複数のルートがある。その中でも、高野山から本宮へ至る小辺路(こへち)は、人のいない山の中を4日間かけて歩くけっこうハードな古道だ。高野山を出発し、大股、五百瀬、十津川、本宮と全長72kmで、標高1,114mの峠も越える。
地図
2003年の10月から11月にかけ、熊野が世界遺産になる前の熊野古道を一人歩いてきた。熊野古道といっても何本かあり、私が歩いたのはいずれも熊野本宮につながる小辺路、雲取越え、中辺路の古道だ。熊野について何も知らなかった私は最初のルートとして小辺路を選んだ。
小辺路がこの3ルートの中では最もきつかった。最初の1日2日は、普段運動不足の私にはこたえたが、3日目あたりから歩くのが楽しくなった。体が慣れてきたのか、私にも少しは残っていた野生が目覚めたのか分からないが、本宮に到着してもそのままずっと歩いていきたい気分だった。また、自分以外誰もいない山の中でGPSも携帯も持たず歩くのは新鮮だった。道に迷ったら、怪我でもしたらという不安と緊張感が高揚感を引き出したようだ。しかし山の中では一人だけ、足音、吐く息、全てが自分自身に返ってきた。修験道、修行僧、サドゥー、山に一人で入っていくのがわかる気がした。
ところで、小辺路を歩いて気がついたことがあった。私はミャンマーのナガやチンといった世界の中でも辺境地と言われている地域に何度か行ったが、小辺路はそれよりもずっと辺境だった。ミャンマーでは、奥地の山でも人がいた。山の中には村があり、人の生活があった。山奥でも1日歩けば何人もの村人と出会う。ところが、小辺路の山の中で出会った人間は古道を歩きに来た旅行者が一人だけ。昔賑わっていた村もすっかり自然に帰っていた。
もうひとつ気になったことがあった。熊野でも杉や檜の植林が多かった。植林された山はすぐ分かる。薄暗く、下草も少なく鳥の声も聞こえない。山自体が死んでいるような雰囲気だ。歩いていてもちょっと鬱になりそうだ。それに、植林地ではところどころ崖崩れが起きていた。しかし、元々の広葉樹林は光も明るく下草も豊か、鳥も昆虫もいろんな自然が目に入り歩いているだけで楽しかった。
私が行ったときは、2日目と3日目はずっと雨が降っていた。秋の雨は冷たかったが、山道でほてった体には気持ちよかった。しかし、ところどころ土砂崩れで危険な箇所があるから注意が必要だ。写真に関しては、晴れているよりも雨のほうが雰囲気がいい。雨にぬれると山も木も植物もみな元気に、また、なまめかしくなる。
上記の写真で、上から3段目までは高野山から大股、4, 5段目が大股から五百瀬、6, 7段目が五百瀬から十津川, その後が十津川から熊野本宮大社までの写真だ。
熊野古道(小辺路) | 熊野古道(雲取越え) | 熊野古道(中辺路)