2010年 8月 01日
キリスト教の布教が遅れた南部チンには入れ墨以外にも固有の宗教、文化が色濃く残っている。政府の施策により仏教がある程度入ってきているが、仏教はキリスト教と違い元々の宗教や文化を強制的に変えようとはしていない。
南部チンの中心の町、ミンダの食堂で夕食をとっていたときだ。一人の男が勢いよく入ってきて店の女将に何か尋ねている。手には弓を持っている。ムン・チン語だったので何を言っているか分からなかったが、切迫した様子だということだけは分かった。男は必要なことだけを聞き、風のように去っていった。女将に尋ねると、こういうことだった。
あの男は自分の村であるトラブルに巻き込まれ、村人を一人殺してしまった。それ以来め、この男は殺された方の家族から敵討ちとして狙われる立場になった。男は村を出てずっと逃げ回っているという。いつ襲わるか分からないので、弓は片時も手から離さないらしい。彼は女将に、彼を追っている家族の消息を尋ねたのだ。
翌日、ミンダを離れて徒歩で村に向かった。夕方着いた村は外国人が珍しいようだ。子供たちが遠巻きにしてこちらを見ている。ビルマ語で話しかけても通じない。子供たちの中で一人、赤ん坊を背負った少女は好奇心が強いようで、他の子供たちが去った後でもずっとこちらを見ていた。しかし、声をかけカメラを構えると物陰に隠れた。そういえば私が幼いころ、外国人を見ると友達と一緒に遠くから隠れるようにしてその外国人を見ていたのを思い出した。興味があるけど怖かったのだ。その頃は、外国人を見るとなぜかいつも「アメリカ人」と言っていた。
翌朝、山へ向かうために準備をしていると昨日の少女が赤ん坊を背負ってやってきた。またカメラを構えた。今度は逃げずにじっとこちらを見ていた。早朝の弱々しい太陽の光が少女を浮きだたせる。弱い光のほうが人の心の陰影をよく映す。明るすぎるとかえって見えなくなるのが写真だ。
チン1(入れ墨の女)| チン2(敵討ち)| チン3(男を上げる)