2010年 8月 04日
チン州南部には「男を上げる」古代の祭りが残っている。
ムン・チン語で「ルンユー」という祭りがある。直訳すると「石酒」祭りだ。この祭りは個人が主催する。村人たちの協力で山から巨石を運び家まで持ってくる。男は村人たちに酒や食べ物を振る舞う。村人の胃袋を満足させるため、貴重な財産であるミトン牛(ナガからチンの山岳地帯に生息する、半家畜半野生の牛)を数頭殺すことになる。この祭りを一生のうちに何度も行うと、男は尊敬される。「男を上げる」ための祭りだ。
ところで、世界の古代遺跡としてドルメン(支石墓)というのがある。ヨーロッパ、アジア、日本にもある。ヨーロッパでは紀元前2000年ごろ、日本では弥生前期に消滅してしまった。ルンユーの石はこのドルメンとそっくりである。チンでもルンユーの石は墓として使われている。世界の古代がここチンでは生きていた。
私はルンユーの行われるK村にいた。3月、焼き畑で山が燃え上がるところから始まった。村総出の山焼きが終わり、これから1週間ほどルンユーの祭りが行われる。今回のルンユーの主人公タンハーが山へ巨石を村人たちと一緒に見に行った。重量1トンほどの巨石、これを山の中からタンハーの家まで運び込む。距離はおよそ5km。生け贄にするためのミトン牛も山に探しにいった。ミトン牛は家畜といっても広い山の中に放し飼いしているので、何人もの村人の協力があっても6頭捕まえるのに2日間かかった。ミトン牛6頭がY字ポールに繋がれた。石も家のすぐ近くまでやってきた。村人全員が注視する中、タンハーは弓を引いた。心臓を直撃し、大きなミトン牛がドドッと倒れた。 全てのミトン牛が倒れ解体され、大鍋で料理された。Y字ポールにはミトン牛の頭だけが載せられた。そこにテーブル状の巨石が運び込まれてきた。足の代わりになる石を四つ並べ、その上に数十人でかかえられた巨石がかけ声とともに乗せられた。歓声があがった。この後、2日間夜を徹しての宴が続いた。
祭りも終わり、日常がやってきた。雨期が来る前に、焼いて黒くなった山に小屋を建てなければならない。少年は山で狩りの練習をする。茅葺きの屋根も葺き替えなければいけない。ルンユーをやったタンハーは男が上がったのだろうか。私にはよくわからない。黙々と小屋を建てる作業を続けていた。
古代から続くこのルンユー、このあたりでも珍しくなってきたらしい。村に学校もでき、外の文化が入ってきた。若者たちは村を出たがっていた。ルンユーは財産を浪費してしまうので、自分はやらないと多くの若者は言っていた。男を上げることよりも、村を出ることのほうが今では大切らしい。
チンの村から東京に戻って、ムン・チンの青年と再会した。数年前から東京に住んでいた彼はタイの大学に留学するという。彼にルンユーの写真を見せると大喜びだった。外に出ることで初めて、自分の文化の大切さが分かるようだ。彼にはルンユーの写真を全てあげた。私の撮った写真が彼らの役に立てれば私も嬉しい。
チン1(入れ墨の女)| チン2(敵討ち)| チン3(男を上げる)